家族へのお知らせは、AIに下書きを作ってもらえます。事実を決めるのは職員のままで、書き出しで固まる時間だけを減らせます。
先日、SNSのXでこんな質問を出してみました。「介護の仕事で、AIに少し手伝ってほしいのはどれですか?」。選択肢は、レクの企画、家族向け文章、研修資料の要約、新人への説明の4つです。そこへ「②お願いします」と返事をくれた方がいました。②は家族向け文章。というわけで、今回はそこだけを1本にまとめます。
読み終わるころには、走り書きのメモからお便りの下書きを作るところまで、そのまま真似できる形になっているはずです。
1. 家族向けの文章は「何を書くか」より「どう書くか」で止まる
夕方、申し送りの前。あと10分で記録に取りかからないといけない。そんな時間に「冬物の衣類、そろそろご家族にお願いしないと」と気づく。伝える中身は頭の中にあります。上着が足りない人がいる、名前を書いてほしい、今月中に持ってきてほしい。それなのに、パソコンの前に座ると一行目が出てこない。
止まる場所は、だいたい決まっています。
失礼にならない言い方が思いつかない。特に、久しく面会に来られていない家族や、あまり話したことのない家族には、どこまで踏み込んでいいのか毎回迷います。事実は分かっているのに、どの順番で書けばいいかが決まらない。丁寧に書こうとすると前置きが長くなって、肝心のお願いが最後のほうに埋もれてしまう。
それに、家族ごとに事情が違います。経済的に余裕のない家庭、遠方で年に一度しか来られない家族、関係がぎくしゃくしている家族。同じ文面を配っていいのだろうかと、送信ボタンの前で手が止まる。
多くの職場では、去年の同じお知らせを探してきて日付と中身を直す、というやり方をしていると思います。それでも探す手間はかかりますし、去年の文面が今年の事情に合っているとは限りません。
ここで言っておきたいのは、これは文章力の問題ではないということです。時間がないことと、型が手元にないこと。詰まっている原因はそこにあります。
書くことは決まっているのに、一行目が出てこないんですよね…
そこだけ手伝ってもらいましょう。中身を決めるのは、今までどおり職員です。
2. AIに任せていい部分と、職員が決める部分
線引きはひとつだけ覚えれば足ります。何を伝えるかは職員が決める。決まった事実を、読みやすい順番と言い回しに整えるのがAIの仕事。 これが逆になると危ないです。
AIに任せていいのは、こんなところです。
- ✓書き出しの挨拶や結びの言い方
- ✓伝える順番の整理
- ✓お願いを角の立たない表現に直すこと
- ✓長すぎる文を短くまとめること
職員が決めるのは、こちらです。
- ✓何を伝えるか(伝える必要のない話まで広げない)
- ✓日付、枚数、金額、場所といった事実
- ✓施設のルールに合っているかどうか
- ✓そもそも文章で送っていい内容かどうか
なぜここまで分けるのかというと、AIは施設のことを何も知らないからです。名前も、洗濯の運用も、面会の決まりも知りません。そして厄介なことに、知らない部分を「たぶんこうだろう」と埋めてしまうことがあります。もっともらしい文章が出てくるので、読み流すと気づきません。
言い換えると、必要なことをきちんと伝えるほど、思ったとおりの文章に近づきます。だから次の章で、何を伝えればいいのかを固めます。
3. AIに伝えるのは、この7つ
順番に埋めていけば、それだけで依頼文になります。
- 誰が誰へ送る文章か(施設の相談員から、ご家族へ)
- 何のための文章か(冬物衣類を持ってきてほしいとお願いしたい)
- 必ず入れたい事実(足りていないもの、枚数の目安、記名のお願い)
- 期限や日時(11月30日まで)
- どんな雰囲気にしたいか(ていねいだが堅すぎない、押しつけない)
- どの形式で使うか(配布用のお便り、連絡帳、メール)
- どのくらいの長さか(400字程度)
そして最後に、この一行を添えます。
分からないことは勝手に補わず、質問してください。
これを入れておくと、足りない情報があったときに質問を返してくることが増えます。ただ、いつも聞き返してくれるとは限りません。入れないと、足りないところをAIが推測で補ってしまうことがあります。ありもしない持ち物や、勝手に決められた集合時間が混ざる。一行足すだけなので、毎回つけておくのがおすすめです。
4. 実例:走り書きのメモが、家族向けの文章になるまで
冬物衣類のお願いを例に、最初から最後まで通して見てみます。
ステップ1 職員のメモ
まずは、頭の中にあるものをそのまま書き出した状態です。きれいに整える必要はありません。
📝 職員のメモ(走り書き)
冬物のこと ・上着足りない人が何人か ・去年も名前書いてないの多かった…また同じことに ・下着とくつ下も足りてない人いる ・今月中には欲しい、寒くなる前に ・持ってくるのどこに置いてもらう?事務所でいい? ・洗濯どうする→うちで洗うやつは記名必須って伝えて ・文章にするか連絡帳に書くか迷う
事実と、自分への確認と、迷いが混ざっています。実際のメモはこんなものです。
ステップ2 AIへの依頼文
このメモを、3章の7項目に振り分けます。ここで初めて、自分が何を決めていなかったかが見えてきます。枚数の目安、郵送を受けるかどうか、期限の日付。決まっていないものは、この時点で確認しておきます。
💬 AIへの依頼文(コピーしてOK)
介護施設から、利用者のご家族へ送るお知らせ文を作ってください。 ・誰から誰へ:〇〇(施設名)の相談員から、ご家族へ ・目的:冬物の衣類を持ってきていただくお願い ・必ず入れる事実 - 上着、長袖の下着、くつ下が足りていない方がいること - 目安は上着2枚、長袖の下着とくつ下は各5組ほど - すべての衣類にフルネームで記名をお願いしたいこと - 施設で洗濯するため、記名がないと持ち主が分からなくなること - 面会のときに事務所へお預けいただくか、郵送でも受け付けること - 新しく買い足す必要はなく、ご自宅にあるもので構わないこと - 分からないことは担当相談員へ連絡してほしいこと ・期限:11月30日 ・雰囲気:ていねいだが堅すぎない。お願いを押しつけない言い方 ・形式:A4一枚の配布用のお便り ・長さ:400字程度 分からないことは勝手に補わず、質問してください。
ステップ3 AIが作った文章
上の依頼文を送ると、こういう文章が返ってきます。
✨ AIが作った文章(完成例)
ご家族の皆さまへ 冬物衣類のご準備のお願い 日ごとに冷え込みが増してまいりました。いつもご協力をいただき、ありがとうございます。 朝晩の寒さに備え、冬物の衣類をご用意いただきたく、ご案内いたします。現在、上着や長袖の下着、くつ下が足りていない方がいらっしゃいます。 【ご用意いただきたいもの(目安)】 ・上着 2枚ほど ・長袖の下着、くつ下 各5組ほど 新しくお買い求めいただく必要はございません。ご自宅にあるもので差し支えありません。 【記名のお願い】 衣類は施設でお洗濯いたします。他の方のものと混ざらないよう、お手数ですが、すべての衣類にフルネームのご記入をお願いいたします。 【お渡し方法と期限】 面会の際に事務所へお預けいただくか、ご郵送でも承ります。11月30日までにお願いできますと助かります。 ご不明な点や、ご準備が難しいご事情がございましたら、担当の相談員までお知らせください。ご家族のご事情に合わせて、一緒に考えさせていただきます。 〇〇(施設名) 相談員 〇〇 電話 00-0000-0000
白紙から書き出すより、ずいぶん早く形になります。ただし、枚数の目安や郵送の可否を確認する時間は別にかかります。正直なところ、時間を食うのは文章づくりよりも事実の確認のほうです。
ステップ4 職員が確認するところ
出てきた文章は、下書きです。そのまま配らず、ここを見ます。
✅ ここは職員が確認・修正
- 枚数の目安(上着2枚、下着とくつ下は各5組)が、自分の施設の洗濯の回り方に合っているか
- 「施設でお洗濯いたします」が本当か。家族が持ち帰る運用なら、ここは書き換える
- 記名の場所や書き方に決まりがあれば足す(衣類のタグに油性ペンで、など)
- 郵送を受け付けているか。受けていないなら、その一文を消す
- 「一緒に考えさせていただきます」が、施設として約束できる範囲か
- 最後の署名と電話番号はAIが作った枠。実際の担当者名と電話番号に入れ替える
- AIが足した季節の挨拶や「ご協力をいただき、ありがとうございます」が、いつものお便りと比べて浮いていないか
いちばん見落としやすいのが最後です。AIは丁寧に書こうとして、施設が普段使わない言い回しを足してきます。他の書類と並べたときに違和感がなければ、そのままで大丈夫です。
1章で書いた「家族ごとに事情が違う」という迷いも、ここで少しだけ軽くなります。全員に同じ文面を配っても、「ご準備が難しいご事情がございましたら、担当の相談員までお知らせください」の一行があれば、事情のある家族は相談してくれます。一律の文面に、逃げ道を一つ残しておく。それだけで配りやすくなります。
洗濯や記名の決まりは、施設によって違います。完成例をそのまま使わず、自分の施設の運用に合わせて直してください。
もうひとつ、短い例で
同じ型は、別の場面にも使えます。面会予定の変更を例にすると、メモはこんな感じでしょうか。
📝 職員のメモ(走り書き)
面会のこと ・来週の水曜、防災訓練で午後つかえない ・面会は午前だけにしてもらう ・振替は木曜でもいい?→主任に確認済み、OK ・連絡帳に貼るか、玄関に貼るか
これを7項目に振り分けて渡すと、こうなります。
✨ AIが作った文章(完成例)
面会時間の変更について(11月11日・水曜日) いつもお世話になっております。 11月11日(水曜日)は施設内で防災訓練を行うため、午後の面会をお休みとさせていただきます。当日は午前9時から正午までのご面会をお願いいたします。 ご都合がつかない場合は、翌12日(木曜日)へ振り替えていただけます。お手数をおかけしますが、よろしくお願いいたします。 ご予約やご相談は、担当職員までお申し付けください。
ここで、メモにも依頼文にも書いていないものが2つ混ざりました。「午前9時から正午まで」という時刻と、「ご予約やご相談は」という予約の話です。どちらもAIが「たぶんこうだろう」で足したものです。
もっともらしく読めるので、そのまま貼ってしまいがちです。短いお知らせほど、ここが危ない。
✅ ここは職員が確認・修正
- 「午前9時から正午まで」が、自分の施設の面会時間と合っているか。違えば直す
- 予約制でないなら「ご予約や」を消す
- 振替の日付と曜日が、元のメモと合っているか
5. そのままコピーして使える依頼文テンプレート
〔 〕の中を書き換えれば、そのまま使えます。
💬 AIへの依頼文(コピーしてOK)
介護施設から、利用者のご家族へ送る〔お知らせ/お願い〕の文章を作ってください。 ・誰から誰へ:〔施設名・部署〕から、ご家族へ ・目的:〔何を伝えたいか、何をお願いしたいか〕 ・必ず入れる事実 - 〔事実1〕 - 〔事実2〕 - 〔事実3〕 ・期限や日時:〔いつまでに/何月何日の何時から〕 ・雰囲気:〔ていねいだが堅すぎない/お願いを押しつけない〕 ・形式:〔配布用のお便り/連絡帳に書く文/メール〕 ・長さ:〔400字程度〕 書かれていない情報を推測で足さないでください。 足りない情報があれば、書き始める前に質問してください。
書き換えるのは、この3か所です。
目的 ここが曖昧だと全体がぼやけます。「衣類のこと」ではなく「冬物を持ってきてほしいとお願いしたい」まで書きます。
必ず入れる事実 ここが文章の中身になります。箇条書きで構いません。ここに書かなかった事実は、AIが推測で補ってしまうことがあります。
長さ 連絡帳なら150字、配布用のお便りなら400字くらい。指定しないと、たいてい長くなります。
6. 毎回同じ説明をしなくて済むように、最初に設定しておく
3章の7つを見て、「これを毎回打つのか」と思った方もいるかもしれません。でも、7つのうち1番目と5番目は、ほとんど変わりません。誰が誰へ送るのか。どんな雰囲気にしたいのか。この2つは、あなたが介護施設で働いているかぎり、だいたい毎回同じです。
変わらないものは、最初に一度だけ登録しておけます。ChatGPT、Gemini、Claude。どれにも「自分のことを先に書いておく欄」があります。呼び方はサービスごとに違うだけで、やることは同じ。ここに書いた内容は、そのあとのやりとりにずっと効きます。
登録しておくと、依頼文が短くなります。毎回書くのは「今回の事実」だけ。3章の最後に添えた「勝手に補わないでください」も、ここに入れておけば毎回打たずに済みます。
💬 AIへの依頼文(コピーしてOK)
私は介護施設の職員です。利用者のご家族へお渡しする、お知らせやお願いの文章を作ることがよくあります。 文章を作るときは、次のことを守ってください。 ・敬語は丁寧に。ただし堅くなりすぎず、読んで疲れない言葉にしてください ・ご家族の負担に配慮してください。急かす言い方、責める言い方はしないでください ・私が伝えていない事実(日付・金額・持ち物・場所など)は、勝手に補わないでください。 分からないところは、質問してください ・専門用語や略語は使わず、はじめて読む方にも分かる言葉にしてください ・要点が先に分かるように、必要なら箇条書きを使ってください
設定する場所(2026年9月時点)
ChatGPT ―「カスタム指示」
パソコンなら、設定を開いて「パーソナライズ」を選びます。スマホのアプリなら「ChatGPTをカスタマイズ」です。どちらも「カスタマイズを有効にする」がオンになっているのを確かめてから、「カスタム指示」の欄に書き込みます。ここがオフのままだと、書いても効きません。無料のプランなら1,500文字まで、有料のプランなら5,000文字まで入ります。
▶ ChatGPTのカスタム指示(OpenAI公式ヘルプ)
Gemini ―「Geminiへのカスタム指示」
パソコンなら画面下部の、スマホのアプリならメニューの中の「設定とヘルプ」から、「パーソナル インテリジェンス」→「Geminiへのカスタム指示」と進み、「+追加」で登録します。次から聞き直さずに、合わせて答えてくれます。
▶ カスタム指示でGeminiの回答をカスタマイズする(Google公式ヘルプ)
※個人のGoogleアカウントが必要です。仕事用・学校用や、職場から配られた管理対象のアカウントでは使えないと公式に書かれています。画面に見当たらないときは、依頼文の中に毎回書く形でかまいません。それでも十分に使えます。
Claude ―「Instructions for Claude」
左下の自分のアイコンから「Settings(設定)」を開き、「Instructions for Claude」の欄に書き込みます。
▶ Claudeのパーソナライズ機能(Anthropic公式ヘルプ・英語)
画面のメニュー名は、わりとよく変わります。見つからないときは、設定の中を「カスタム」「指示」「Instructions」あたりの言葉で探してみてください。
ここだけは気をつけてください
この欄に、利用者のお名前や、施設が特定できる情報は書かないでください。書いた内容は、あとから自分で直すことも消すこともできますが、消すまではそのAIに残ります。書くのは「介護施設の職員です」「家族向けの文章を作ります」くらいまでで足ります。施設名も要りません。
7. 送る前に、ここだけは職員が見る
難しい話ではありません。ふだん先輩に見てもらうときと同じ目で見れば足ります。
事故や体調の変化は、文章より先に報告です。ここだけは順番を変えないでください。
利用者が分かる情報は入れずに頼む。 依頼文に打ち込むときは、お名前を「〇〇様」に置き換えます。部屋番号や生年月日、家族の連絡先も同じです。出てきた文章に名前を入れるのは、最後に自分の手で。
ただ、名前さえ消せば安心、とはいきません。年齢と病名と家族構成に、具体的な出来事が加われば、名前がなくても誰のことか分かってしまうことがあります。他の記録と突き合わせて本人が分かる状態なら、それは引き続き個人情報として扱う必要があります(個人情報保護委員会のQ&A)。迷ったところは書かずに、文章の形だけ作ってもらって、中身はあとから自分の手で埋めれば足ります。
どのAIを使っていいか、何を入力していいかは、職場でルールが決まっていることがあります。国からも、生成AIに個人情報を入力するときの注意が出ています(個人情報保護委員会の注意喚起)。入力した内容の扱いはサービスごとに違うので、使う前に一度、職場のルールを確認しておくと安心です。
日時、金額、場所、持ち物は必ず見直す。 AIが日付を書き換えることはあります。元のメモと突き合わせて確かめてください。
確認せずに送らない。 下書きが出てきた時点では、まだ半分です。
事故、体調の変化、医療のこと、契約、苦情。この5つは文章より先に報告です。 まず上司へ伝えて、施設の手順に沿って動く。AIに頼んでいいのは、報告も対応も終わって上司の確認が取れたあと、その内容を家族向けの文章として整えたい場面だけです。慌てているときほど「とりあえず文面を」と手が動きがちなので、ここだけは気をつけてください。
判断するのは人。 送るかどうか、いつ送るか、誰に送るかを決めるのは職員です。AIは文章を整える側にいてもらいます。
8. 最初の1通は、個人情報の入らないお知らせから
いきなり大事な連絡で試すと、かえって時間がかかります。最初は、行事のお知らせや持ち物のお願いのように、名前が出てこないものを選んでください。うまくいかなくても困らないものから始めるのが、いちばんの近道です。
今日やることを1つだけ挙げるなら、これです。次に家族へ出す予定のお知らせを1つ思い浮かべて、入れたい事実を箇条書きで3行だけ書き出してみてください。あとは5章のテンプレートに貼るだけで、下書きが出てきます。
そこから先、施設の言い方に合わせて直すところは残ります。でも、白紙を前に固まる時間は減ります。まずはそこからで十分です。
📝 この記事のポイント
- ✓伝える事実を決めるのは職員。AIは順番と言い回しを整える係
- ✓依頼文に入れるのは7つ。最後に「分からないことは質問してください」を添える
- ✓利用者名や施設が分かる情報は入れない。日時と数字は元のメモと突き合わせる
- ✓事故・体調の変化・医療・契約・苦情は、文章より先に上司へ報告
- ✓最初の1通は、名前の出てこないお知らせから
完璧な1通を目指さなくて大丈夫です。まずは下書きを1つ、出してみるところから。